F1日本GP
2006年、今シーズンのF1開幕戦は東京GPから。
コースは、鈴鹿でも富士でもない。
「東京インペリアルサーキット」
あのF1胴元の「バニー何とか」と石原親分が企んで実現した。
東京都心の公道を閉鎖して特設された、ギアサーキット。
コースは何のことはない、いわゆる「皇居一周」。
勝者には、恐れ多くも「天皇賜杯」を賜ることができる。
モナコGPにも匹敵する格調高い大会だ。
私はFIドライバー、それも皇帝と呼ばれた天下無敵のドライバー。
ドライブするマシンは改良を重ね、他の追従を許さない「ドカポル006」。
今私は、スタートゴールラインである「馬場先門」の交差点でじっと前を見詰めている。
正面に見える気象庁の屋上は太陽の光を受け、眩しいばかりに光輝いている。
今朝の天気予報「晴れ」は間違いないんだろうな。
そんな事を考えていたらいつの間にかスタートが迫ってきた。
スタートシグナルはいきなり赤から青に変わる変則スタート。
なぜかコースとは直角に向いた意味不明のシグナルが、青色から黄色そして赤色に変わる。
この2秒後スタートシグナルは青色に変わってスタートだ。
ここで焦っちゃだめだ。フライングは、シーズン中2点のペナルティーと9000円の罰金が科せられる。
F1ドライバーにはかなり痛い出費だ。
そしてシグナルが「青」に変わった瞬間、レースは始まる。
短いホイールスピンの後、マシンは猛烈な勢いで加速する。
ゆるい左コーナーを加速しながら抜けてまずは「竹橋コーナー」に飛び込む。
このコーナーを決めれば、翌日の毎日新聞はトップページで私と006を掲載してくれるだろう。
スタート直後はトップスピードからの進入ではないから、まずはしっかりと自分のスペースを確保。
3速から4速へとシフトアップしながら代官町中速S字コーナーへ向かう。
緩やかな上り勾配がついたS字コーナーは、前輪に加重がかからずアンダーを出しやすいから気を抜けない。
千鳥が淵沿いのたらたらと続く緩いカーブは、余程のことがないかぎり抜かれる心配はない。
しかしこの後のコーナーがくせものだ。
左直角コーナーは反対側に「英国大使館」があり進入のライン次第では後続にパスされかねないし観衆も多い見物コーナー。
この「ブリティッシュコーナー」を絶妙なライン取りで抜け、私はトップを維持している。
この後は三宅坂まで一直線、途中半蔵門でコースのピークを超え一気に下る。
国立劇場を過ぎ、最高裁に差し掛かったところで6から5速にシフトダウン。
それでも200キロは超えているであろう速度で「三宅坂コーナー」にアプローチ。
ここで試される各マシンの空力特性。
この時ドカポル006は、私のドライブに完璧な挙動で応えてくれた。
「怖くない」
前も後ろもしっかりとグリップして抜けそうな感触はない。
そして、ここからはドライバーの度胸試し。
国会前交差点の緩い左カーブと、続く警視庁横のこれまた緩い右カーブ「オー・コエー」。
5速べた踏みで行くか、それとも6速パーシャルで抜けるか悩むところだけど、オープニングラップは勿論5速べた踏みで抜ける。
ここはコースの中で、ダウンフォースも効いて、最も強い横Gを左右連続して受けるハードなポイントだ。
桜田門を通過して、このコースもう一つのパスポイント、最終コーナーである祝田橋交差点
「イワイダッチューノ」に進入。
ここも直角に左へ回るから、ブレーキの我慢比べになる。
ここを超えればゴールラインを通過するホームストレッチ「ババサッキ」だから、ほとんど1速からの加速・最高速勝負。
2速、3速と加速してオープニングラップはいただいた。
と、思った瞬間。
スタートシグナルは青から黄色に変わった。
いけね、止まらなきゃ。
ゴールライン直前で停止。
後続のマシンの中には赤色シグナルを無視して駆け抜けていくマシンもいる。
「ずるいぞ」
と思った瞬間。
何処から現れたか、赤いランプをくるくる回し、甲高いサイレンの音を響かせながら白いモトが飛び出していった。
おおっ、コースマーシャルだ。
危ないところだった。
なにしろ次のライセンス更新は、なんとしてもゴールドライセンスに復帰しなきゃならないからな。
「安全第一」レースは二の次。
一周5キロの「東京インペリアルサーキット」で、
「F1天皇杯」
なんての、あるわけないな。
アホな夢でした。